誕生秘話

2005年冬。「可能な限り軽く、薄く、しかも繰り返し書き消しができる筆談器を探しています」
NPO法人阿波グローカルネットにひとりの女性からある相談が寄せられました。彼女は中途難聴者の看護師です。的確で、しかも迅速なコミュニケーションが求められる医療現場からの発信。この発信こそが「コミュニケションボード」誕生のきっかけとなるのです。従来の据置型の筆談器ではなく、携帯性に優れたもの。マーカーペンなどを使うボード類ではなく、クリーンなもの。彼女の要望は非常にシンプルなものです。しかし高いハードルでもありました。

“阿波グローカルネットの誕生”

2002(平成14)年、高齢や障がい者や難病で在宅療養する方の住環境や福祉機器とのマッチングに問題意識を持った医療・福祉・建築などの専門職が集まり、阿波グローカルネット〔略称:AGN〕を発足しました。後に2003(平成15)年10月6日、NPO法人化しました。

“難聴の看護師さん”

AGNメンバーの中に、中途難聴の看護師さんがいました。
その彼女を中心として、「きこえのバリアフリーを考える」フォーラムを開催したり、「難聴児を持つ親の会」と交流会を持ち、職場や生活上での悩み、苦しみなど様々な問題の共有・情報交換を行っていました。

“手づくりの筆談器”

2003年(平成15年)メンバーである看護師さんは、(社)全国中途失聴者・難聴者福祉大会で「手づくりの携帯筆談器」を見つけてきました。 彼女にとって筆談器が必需品であることを、私たちは知り、いろんな材料を揃えて、筆談器の試作を始めました。 もっと使いやすい、「きこえ」が不自由な人に求められる「筆談器」ができないかと、試行錯誤したのです。

“元祖CoBo”

紙や布で台紙を作って、シート状になったホワイトボードを貼り、マーカーを使い、いろいろな大きさのものを作ってみました。 「コミュニケーションボード」を縮めて、愛称「COBOコボ」と名づけて、多くの方にテスト使用をお願いしました。 しかしその耐久性は低く、消しくずで手が汚れる、消すのに時間がかかるなど、商品化には程遠いのです。

“デザイナーと素材との出会い”

それでもあきらめきれないAGN本田代表理事が、友人である倉橋デザイナーに相談を持ちかけていました。 すると、倉橋デザイナーから「この新素材なら、使えるかもしれない!!」 マイクロカプセルを利用した「磁性シート」を東京ビッグサイトで開催された「国際文具・紙製品展」で見つけてきたんだ、という情報です。2005(平成17)年7月6日のことでした。


“マッチングイベントとの出会い”

倉橋デザイナーは、1ヶ月も前に届いていたDMを思い出しました。「東京デザインマーケット」出展案内です。
まだ間に合うかもしれない!AGNの「プロジェクトCoBo」再スタートです。倉橋デザイナーと共に、「大きさ」「カタチ」などのデザインや仕組み、そして使いやすさを追求して、幾度も夜遅くまで議論を重ねました。締め切りは7月29日、目の前です。

【東京デザインマーケット】とは・・・

東京都が主催となり中小企業とデザイナーとの出会いと商談の場を提供するもので、デザイナーから応募・選定した様々な分野の優れたデザイン提案の試作品を展示し、商品デザインについてデザイナーと中小企業双方からのプレゼンテーションを実施できる、マッチングイベント


第一次審査に応募”

設計図や3Dデザイン図、デザインコンセプトなど膨大な書類の「提出ができた!」と倉橋デザイナーから連絡が入ったのは、締め切りの1時間前でした。 応募数は62社126件。そして9月6日、その中から38社54件のひとつに、私たちのCoBoが選定されたのです。 夢が一歩近づきました。10月25・26日開催の東京デザインマーケットに参加できる資格を手に入れたのです。

行くべきか行かざるべきか”

9月29日東京都庁での説明会でした。東京デザインマーケットに出展する試作品が必要とのことです。 見積を取ると、試作品は手づくりのため2台で10万円の制作費がかかります。 しかも、商品化してくれる会社が見つかる保証はなく、交通費も自腹覚悟。 もし、ダメだったら全てが水泡と帰してしまう・・・ でも、ここまで来て、諦められるはずがありません。 「ぜったいダイジョウプ!モノにする」との覚悟で、制作費の1/2を倉橋デザイナーから借金をしました。

“花の東京デザインマーケット”

倉橋デザイナーを筆頭に、AGNの3人が「東京デザインマーケット」の私たちのブースに陣取りました。 企業を相手にプレゼンテーションや、同時開催の「産業交流展」を回って営業活動も行い、2日間で20社の方と名刺交換ができました。 そして、CoBoに使用した「磁性シート」の製造メーカーである「ケミテック」からは4名が来られて、その場での商談となりました。 「ケミテック」としても、オリジナル商品が欲しい。私たちは、なぜこの「筆談器」を必要とする人がいるのか、必死で訴えました。

“果たして売れるのか?”

とても熱心に聴いてはくれました。ただ、何かが足りない。企業が知りたいのは「売れるかどうか」なのです。 そこで、2台の試作品とプロモーションビデオで必要性やデザイン、金額についてのアンケートをとることにしました。 地元ろう学校の文化祭では一日中、先生や生徒、保護者の方に試してもらいました。 全国の福祉住環境を軸として活動するNPOが所属する、福祉住環境ネットワーク会議の皆様にもご協力を仰ぎ、11月13日から2008〔平成118〕年1月12日までに、156件の調査がまとまったのです。

“アンケート結果”

デザインや使いやすさについては、『悪い』との回答は少なく、金額については圧倒的に『1,500円以下』を望む声が多かったので、メーカーにもこの線で何とかお願いすることにしました。 一番心配していた『欲しいですか』との問いには、なんと156人中121人が『欲しい』と答えてくれたのです。 そして、自由意見の欄にはびっしりと要望・提案・希望などの言葉が並びます。中にはイラストを書いてくれた方も何名もありました。

“携帯筆談器コミュニケーションボードの誕生”

またマスコミにも積極的に宣伝を仕掛けたところ、いくつかの新聞社が記事として掲載してくれました。 すると、AGN事務局にはメールや電話がどんどん来ました。その多くが、商品化に期待を寄せる声だったのです。 これらの資料の提出で、「ケミテック」が商品化を約束してくれることになり、いよいよ2006〔平成18〕年9月その産声を上げたのでした。